いきものAZ コラム企画『いきものがたり』 カワウソ
※こちらは過去に【いきものAZ】内で公開されたコラムです。 【いきものAZ】いきもののスペシャリストに、いきものについてのコラムを書いていただく本企画。 毎年5月の最終水曜…
2020.06.19
投稿日:2020.06.19 更新日:2022.03.10
ジャンプしながら移動する姿で人気者のカンガルー。子どもカンガルーが、お母さんのお腹の袋から顔を出している姿はとてもかわいいです。妙に人間じみた寝方をしていたり、サンドバッグで遊んだりするユーモラスな姿を見かけます。
カンガルーのお腹の袋ってよくよく考えてみると不思議がたくさんです。
どんなふうについているの?なかはどうなっているの?すべてのカンガルーに袋があるの?そんなカンガルーの袋に関するさまざまな疑問について、解説していきます。
目次
カンガルーといえば、ジャンプする姿とお腹の袋が最初に浮かぶ動物です。
同じ有袋類カンガルー科の生き物でも、カンガルー・ワラビー・ワラルーなど多くの種類がおり、合わせると55種類以上です。
ここでは、日本でもよく見かける大型のカンガルーについて解説をします。
日本の動物園で見られるカンガルーは、アカカンガルーとオオカンガルーが多いです。
この2種類はカンガルー科のなかでもとくに大型で、直立すると2mほどの背の高さになります。
この体格で全力疾走をした場合は時速50km以上の速度で、最大跳躍幅は9mというすさまじい速度を出せます。
万が一、人間がオオカンガルーの蹴りを受けてしまったら、大怪我をするでしょう。
どこかぼんやりした顔をしていてかわいいカンガルーですが、身体能力は非常に高いです。
体が大きく脚力も強い大型のカンガルーでも、生まれたばかりのときはとても小さく、そのサイズは体長2.5cm、体重わずか1.3gです。
大人のカンガルーと比べると6万分の1のサイズしかなく、まるで小動物の赤ちゃんです。
目が開いておらず体毛もなく、そんな姿で生まれ出てしまったら野生ではまず生き残れません。
しかし、カンガルーには「育児嚢(いくじのう)」があります。
これがカンガルーのお腹にある袋の正体で、小さな赤ちゃんでもこの育児嚢のなかに入ることで安全に育ちます。
カンガルーの袋(育児嚢)は、赤ちゃんを入れて守りながら育てるためにあります。
育児嚢のなかは外敵や寒さから赤ちゃんを守れる最適な場所で、ほかの哺乳類よりもずっと未熟な状態で生まれてくるカンガルーの赤ちゃんでも安全に育ちます。
でも、カンガルーのお腹の袋はただ赤ちゃんを入れておくだけではありません。
実はカンガルーの袋のなかには乳頭(おっぱい)があり、子どもは袋のなかで誰にも邪魔されずにたっぷりと栄養を摂れます。
そのおかげでカンガルーの赤ちゃんは無事に大人になれる確率が高いため、基本的に1回の出産で生む子どもは1匹のみです。
授乳中の母親と子どもは、外敵に狙われやすいタイミングです。
この時間を安全な状態で行えるのは、生き残るうえでとても大きなメリットです。
コアラやフクロネズミなど、カンガルー以外の有袋類の袋にも同じ機能があります。
お腹の袋は、授乳中も母親が周囲を警戒でき、安全に子育てができる生き残るための進化の結果なのです。
カンガルーの子どもがお腹の袋のなかで育つのは5~6ヵ月ほどで、5ヵ月を過ぎて毛が生えそろってくると子供は袋から出たり入ったりを始めます。
外の世界に興味を持って遊びに出て、おなかが減ったり甘えたくなったら袋に戻る生活が続きます。
くるんと回転するように母親の袋に戻る子どもカンガルーの姿は、とてもかわいいです。
生後1年ほどで子どもカンガルーは独立し、その後は袋に戻らなくなります。そうすると母親は袋のなかに無頓着になり、掃除をしなくなるため臭くなります。
袋は伸縮するものの、なかに子どもがいなければ入り口はとても狭くなっているので、湿気や臭いが充満してしまうからです。
臭いは獣臭さと排泄物が混ざったようで、人間にとってはかなり強烈です。
しかし、赤ちゃんにとってはそれが母親の臭いになるため、一番安心する空間でしょう。
カンガルーといえばお腹の袋ですが、オスのカンガルーには袋がありません。カンガルーの袋は「育児嚢(いくじのう)」という、名前のとおり育児をするための袋です。
前述したように、カンガルーの赤ちゃんは哺乳類のなかでもひときわ未熟な状態で生まれてきます。
それはカンガルーにへそがなく、へその緒を通してお腹のなかで栄養を得られないからです。
育児嚢は子宮や胎盤の代わりになっているため、メスにしかないわけです。
ちなみに、母親が育児嚢で一生懸命赤ちゃんを育てている間、オスのカンガルーは一切育児を手伝いません。
オス同士でケンカをしたり、日向ぼっこをしていて過ごします。
日向ぼっこはさておき、オス同士のケンカは意味があります。
強いオスであることをメスにアピールし、子どもを作り、より強い子孫を残して種全体の繁栄に繋げています。
メスは袋から子どもが卒業したらすぐに次の子どもを作ろうとします。
お腹の袋も、オスのケンカも種を残すためのとても大切なものなのです。
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