作家さんに聞いてみた!⑤ sunokko design編
いきものグッズ専門ネットショップ「いきもーる」には、たくさんの個人作家さんたちのグッズがラインナップされています。 素敵ないきものグッズを生み出す作家さんたちは、一体、いきものに対してどれだけの愛を持…
2024.04.11
投稿日:2024.04.11 更新日:2024.06.17
毎年、冬が近づくとニュースなどでよく耳にするようになる「鳥インフルエンザ」は、野生の鳥やニワトリなどの家畜だけでなく、全ての鳥類にとって脅威となる伝染病です。そのため鳥類を飼育している水族館や動物園では、鳥インフルエンザが国内で流行すると、何らかの対策を取るよう求められます。
『サンシャイン水族館』のアイドル、ペンギンたちも鳥類のため漏れなくその対象。2023年度の冬は展示を完全に中止するという、ペンギンにとってもスタッフにとっても、予想だにしていなかった一大事となりました。
今回は展示中止までの経緯や実際に現場で行ったことなどを、担当の芦刈さんに伺ってきました! 水族館の苦渋の決断や、生き物を守るという熱い思いをたっぷり聞いてきたので、ぜひチェックしてみてください!
芦刈さんプロフィール
2019年にサンシャイン水族館に入社し、5年間で主にペンギンやカワウソ、爬虫類などを担当。例年、担当者として鳥インフルエンザ対策の工夫を続けており、2023年度は新たな対策を提案。具体的な対策内容の考案や対策実施の中心的存在として、現場で指揮を取っているキーパーソン。
目次
—昨年は、ペンギンの展示が行われない期間があったそうですね。
芦刈:2023年度は昨今の流行具合や危険性を鑑み鳥インフルエンザ対策のラインを引き上げ、10キロ圏内で発生したら鳥類の展示を中止するという厳しいルールを導入しました。ルール導入後すぐ、昨年の12月に初めて、ペンギンを全く展示しないというタイミングが発生しました。サンシャイン水族館としては異例の事態です。昨年の冬から現在にかけては本当に大変な期間でした。
—芦刈さんの今までのキャリアの中でも初めてのことでしたか?
芦刈:そうですね。私が来てから5年が経ちますが初めての体験でしたし、それ以前も一度もなかったと聞いています。
—まさに一大事ですね。ルールを変更する以前までは、どのような対策をしていたのですか?
芦刈:これまで天空ペンギンについては、50キロ圏内で鳥インフルエンザが発生したら防鳥シートをかけるという対策を取っていました。水槽の上部を全面シートで覆い、鳥が入ってこないようにするのはもちろん、野鳥の糞便が水槽に入らないようにするイメージです。
草原ペンギンのエリアにはシートを貼ることができないため、以前も50キロ圏内で発生の時点で展示を閉鎖していました。そのため「天空のペンギンはいるけれど、草原のペンギンはいない」という期間は過去にもありました。何年間かはその対策を続けていました。
—鳥インフルエンザの現状やより危険性を考え、新たなルール作りが行われたのですね。
—そもそもの話なのですが、鳥インフルエンザとは一体どのような病気なのでしょうか。
芦刈:鳥インフルエンザは、鳥類がA型インフルエンザウイルスに感染して起こる病気です。病原性やウイルスの型によって、高病原性鳥インフルエンザと低病原性鳥インフルエンザに分けられます。高病原性鳥インフルエンザに感染した場合、その鳥は死に至ってしまう、本当に恐い病気です。家きん類は農林水産省、渡り鳥などの野鳥は環境省管轄になります。
—ということは、今回の対策はどちらかの機関から要請があったのですか?
芦刈:どちらの機関も対策を取るよう推奨はしていますが、対策の具体化については任意の取り組みになります。過去の動向や世界のニュースなどを見ており危険性が高まってると感じ、自主的にルールを強化したのです。
—どんな情報がきっかけだったんですか?
芦刈:私たちは、レベル1からレベル5までの鳥インフルエンザの対応指針というものを作り、それを毎年更新しています。鳥インフルエンザの発生が国内だけでも非常に多かった他、海外で猛威を振るっているというニュースも耳にし、危険度が高まっていると判断しました。防鳥シートだけでは、100%ウイルスをガードすることはできないと感じていました。
—だから、今年から10キロ圏内で発生したらペンギンはお休みとしたんですね。
芦刈:ここ数年国内の動物園で鳥インフルエンザが発生してしまったという事例もあったので、自分たちが生き物をちゃんと守らなければという使命感がありました。
また実際に調べてみると、2020年は118日、2021年は143日、2022年は192日と草原ペンギンの展示を中止している期間が年々伸びていることに気が付いたんです。そこで、勇気を出して新ルールの提案に踏み切ることができました。10時間くらいかけて資料を作って……会社に掛け合って……。
—本当にお疲れ様でした……。
芦刈:正直なところ、ペンギンの展示を全て中止する今年のルールは「実際には起きないだろう」というくらいのラインの話だったんです。基準を定めるに当たり相当な覚悟をしてはいましたが、それでもルール変更直後に10キロ圏内で鳥インフルエンザが発生したのは、予想外のことでした。変更したからには実施しなければならないという責任を感じながらも、準備が間に合ってよかったと思います。
—間に合ってよかった、というと?
芦刈:海外のニュースなどは春ごろから耳にしていたのですが、そこからルール変更を提案し、実際に「こうしよう!」と決まったのは2023年10月25日のことでした。そこから、万が一展示を中止した場合の準備などを急ピッチで始めたものの、準備が完了するまでにはちょうど一カ月くらいの期間が必要でした。
11月の末ごろに全ての準備が完了し、ようやくほっと一息つけるなと思っていたら、12月の始めに、千代田区で鳥インフルエンザが発生したというニュースが飛び込んできたんです。対応指針を作成していたので、関係者一同スムーズに行動に移すことができました。
—なんてぴったりのタイミング! 本当にギリギリのところで、ペンギンたちを守ってくださったんですね!!(拍手)
—展示を中止した際は、お客さまから見てどのような状態だったのでしょうか?
芦刈:いつもの様子を見せられない中でもできる限りのことをしようと、いろんな展示に取り組みました。
例えば天空ペンギンの水槽には、ペンギンが泳いでいる様子の写真をパウチし、アクリルガラスに貼り付けて水槽の中に入れました。意外と遠くから見ると、ペンギンがいるように見えたんじゃないかなと思っているのですがどうですか?
—えっ、これ写真なんですか!?
芦刈:そうなんです。実際の展示の数とそろえて、20羽分ぐらい作りました。いろんなポーズのペンギンの写真を撮って、リアルなサイズでプリントアウトし、それを貼り付けるという地道な作業が大変で……。展示が中止となる前日の20時ごろまで準備をしていたのを覚えています。
—皆さんの愛があふれていますね~。
芦刈:草原ペンギンの方も、さまざまな展示を行いました。
例えばペンギンの等身大パネルを置いたのはもちろん、どんなものを食べているのかや、我々がどのように飼育管理をしているのかなどを伝えるパネルも作りました。またペンギン一羽分の羽も展示しました。ペンギンは年に一度羽が生え換わるので、そのときに取っておいたものを展示用に使ったんです。その他、足型や育雛の様子の動画、ペンギンの口の中の模型なども展示しました。
—盛りだくさんで楽しそうです! 芦刈さんの一押しコンテンツを教えてください。
芦刈:最後に挙げた、口の中の模型ですかね。ペンギンの口の中の舌にはパーツがあって、それがびっくりするほどザラザラしているんです! 過去の企画展でも登場したものなのですが、普段はないものを展示でき、楽しんでもらえてよかったです。想定外でしたが、一緒に展示したアジの模型をその模型に食べさせて遊んでいるお客さまもいましたね。
お客さまがよく足を止めてくださっていたのは、育雛の動画でしょうか。小さなペンギンが成長する様子を映した動画は、日本の方はもちろん、海外の方の注目も集めていました。
—展示中止期間はペンギンに会えなくて残念な反面、普段は見られない珍しいものが見られたのですね。
芦刈:クリスマスにもギリギリ被ってしまったので、私がサンタクロースの姿でダイビングをするという場面もありました。
—ひえぇぇ! サービス精神がすごすぎます!!
—ところでお休み中のペンギンたちは、生活の場所を変えなければなりませんよね。
芦刈:そうなんです。サンシャイン水族館は敷地がそこまで広くないため、ペンギンたちがどこで過ごすのかは大きな課題でした。全部で48羽のペンギンがいるのですが、そのうち35羽分くらいを入れる場所を作らなければならなくて。
結局、魚などを一時的に収容したり台車や荷物を置いたりしていたバックヤードスペースを空け、ペンギンたちにそこへ引っ越してもらいました。
—スペースを決めるに当たり、どのような場所でなければいけないなどの条件はあったのですか?
芦刈:目が行き届かなくなってしまう可能性があるので、管理の都合上、一カ所に集めておく必要はありました。また匂いや汚れへの対策も必要で、換気ができる場所、水道があって排水ができる場所というのも必須条件でした。
さらには当然のことですが、鳥インフルエンザからペンギンたちを守るスペースは、屋内でなければなりませんでした。お客さまや不特定多数のスタッフとも接することのない場所を確立しなければならないため、とても気を付けてルールを作り、徹底しました。
—全羽のペンギンが展示中止期間を無事に過ごせたのは、スタッフの皆さんの努力のおかげなんですね。
—最後に、展示が中止になったときから現在までのお気持ちを教えてください。
芦刈:サンシャイン水族館にとって、ペンギンの水槽は水族館を代表する展示です。これを全て中止するというのは、かなりの大きな決断でした。またルール変更後に10キロ圏内で鳥インフルエンザが発生したと聞いた瞬間のショックは、忘れられません。
ペンギンたちを守るためには致し方なかったとはいえ、やはり「実物がいないのであれば行かない」というお客さまは一定数いらっしゃったと思います。お客さまからの残念に思うお声や、再開を待つお声もたくさんいただきました。
あのときのどこにもやりきれない気持ちを心にとどめ、今後も飼育側としてもっとできることがないか、日々模索していこうと思います。今後も、生き物たちを守るということを第一に考えながらも、お客さまにも楽しんでいただける取り組みに挑戦し続けていきたいです。鳥インフルエンザへの対策自体も、時代の変化に合わせて随時見直しを入れていくことになるでしょう。
—ペンギンたちへの愛情と、お客さまを楽しませたいという熱い思いにジーンときました。
芦刈さん、貴重な体験談をありがとうございました!!
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