いきものAZ コラム企画『いきものがたり』さかな芸人ハットリ
※こちらは過去に【いきものAZ】内で公開されたコラムです。 いきもののスペシャリストに、いきものについてのコラムを書いていただく本企画。 今回は・・・、 日本さかな検定1級…
2024.12.24
投稿日:2024.12.24 更新日:2024.12.24
【辰年が終わる前に……】タツノオトシゴってどんな生き物? 水族館の人気者の不思議な生態に迫る!
2024年も師走に突入し、かっこいい干支ナンバーワン(?)の辰年がその役目を終えようとしています。“タツ”といえば、「タツノオトシゴ」が思い浮かびますよね! タツノオトシゴは竜のような不思議な形が特徴で、カラフルでかわいらしい見た目から水族館でも人気の生き物です。
タツノオトシゴの名前や見た目を知っている方は多いかもしれませんが、実はオスが出産をするという、世にも珍しい生き物であることはあまり知られていません。辰年の2024年が終わる前に、タツノオトシゴの不思議な生態について学んでおきましょう!
目次
タツノオトシゴ(竜の落とし子)は一見、魚には見えない不思議な見た目をしていますが、トゲウオ目ヨウジウオ科タツノオトシゴ属に分類されるれっきとした魚類です。登り竜のような格好で泳ぐことからこの名が付きました。
学名はHippocampus(ヒポカンパス)といい、ギリシャ語のHippos(馬)とCampos(海の怪物)が語源です。英名ではSeahorse(シーホース)、和名でも地域によっては海馬(ウミウマ・カイバ)・馬の子(ウマノコ)などと呼ばれているように、馬を連想させる見た目でもあります。
タツノオトシゴの仲間は温帯・熱帯地域の温かい海に生息しており、あまり泳がずに生活しています。水族館でも、他の魚のように前に向かってすいすい泳いでいる姿は見かけませんよね。タツノオトシゴの仲間は進化の過程で腹ビレと尾ビレがなくなり、代わりにサンゴや海藻に巻き付くための長い尾が発達しました。そのため、残った胸ビレと背ビレを使ってふわふわと浮かぶようにしか泳げません。
体にはごつごつとした突起が付いていて、種類によってさまざまな色や形をしています。この特徴も、外敵から身を守るために進化した証です。
タツノオトシゴの仲間は現状分かっているだけで約50~60種類いるといわれており、ざっくりと大型と小型に分けられます。日本には大型・小型のどちらも生息しており、大型はヒメタツやハナタツ、サンゴタツなどが見られます。小型はピグミーシーホースやハチジョウタツなどが見られ、いずれもカラフルな色と独特の模様、形をしています。
ここからは、タツノオトシゴの3つの不思議な生態に迫ります! この知識を押さえておけば、水族館でタツノオトシゴ博士と呼ばれること間違いなし(!?)です。
冒頭でもご紹介した通り、タツノオトシゴはオスが出産をします。オスのお腹には育児のうという袋があり、ここで卵を守り、出産まで行うのです。では、タツノオトシゴはどのような繫殖行動をするのでしょうか?
オスは気に入ったメスを見つけると、追いかけて体をくねらせ、育児のうを膨らませます。これは、卵を育てる準備ができていることをメスにアピールするためだといわれています。
メスがオスを気に入ったら、向かい合ってお腹を合わせながら2匹で一緒に求愛ダンスを踊ります! ときには尾を絡ませてくるくると回ったり、体の色を変化させたりして、休みながらも数日間踊ることもあるのだとか。このときに、お互いの生殖能力を確認し合っているともいわれています。
2匹が向かい合った姿がハートの形に見えるため、昔から恋愛のシンボルにもなっています♡
情熱の求愛ダンスを終え、メスが卵を産む準備が整うと、オスの育児のうに輸卵管を差し込み、卵を産み付けます。オスは同時に精子をかけて受精させ、孵化するまで2~6週間ほど卵を守ります。
オスの育児のうの中で卵が孵化したら、いよいよ出産です。海藻などに尾を巻き付け、いわゆる「いきむ」ようなかたちで育児のうを収縮させながら、勢いよく稚魚を出産します。一度におよそ数十~数百匹の稚魚を出産するとされており、大型種の場合は1,000匹に及ぶことも。
稚魚は全長数ミリほどしかありませんが、成魚とほとんど同じ形をしており、尾を海藻に巻き付けたり、泳いだりすることもできます。
タツノオトシゴの仲間はサンゴや海藻、ヤギ類などに尾を巻き付けて、そっくりに擬態するのが大得意です。泳ぐのが苦手なので、外敵から身を守るためにこのように進化したといわれています。
主に隠れ場所が多くある温かい海の浅場に生息していますが、中には深場に生息する種類もいます。これは、擬態する対象物の生息地に合わせて生活しているためです。例えば、ピグミーシーホースの仲間であるカクレタツノコは、深場に生える種類のヤギ類にうまく擬態して生活しています。
そのためタツノオトシゴの見た目は、種類によって赤いサンゴにそっくりだったり、茶色~褐色の海藻にそっくりだったりと、カラフルで形もさまざまです。
タツノオトシゴは肉食で、魚卵や小魚、甲殻類の小型の動物プランクトンなどを食べます。泳ぐのが苦手なので、獲物を追いかけられません。しかし、特徴的な吻(ふん)と呼ばれる長い口を使って、素早く獲物を吸引(!)します。吻に対して大きめの獲物にも積極的に近づき、食べてしまうのだそうです。大人しそうに見えて案外、どう猛なのですね……。
タツノオトシゴは人間の乱獲や環境破壊によって絶滅の危機に瀕しています。なんと、全ての種類がワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)に記載されているほどです。
主に東南アジアで行われている底引き網漁で混獲されたり、環境破壊によって海の生態系が壊されたりして、野生のタツノオトシゴの数は減ってしまっています。また観賞用や、中国の伝統的な漢方薬の材料として違法に取引される事例もあるようです。
世界では、タツノオトシゴを保護する動きもあります。著名な研究者であるAmanda Vincent(アマンダ・ヴィンセント)博士は、1996年にプロジェクト・シーホースを設立しました。タツノオトシゴの希少な生殖生態は、生物学的にも経済的にも保護しなければならないとして、現在も保護活動を続けています。
今回は辰年の終わりということで、タツノオトシゴの不思議な生態をご紹介しました。タツノオトシゴは、オスが出産する珍しいの生き物です。また優れた擬態能力を持つため、種類によっては野生で見つけるのは困難とされています。もしダイビングやシュノーケリングで見かけたら、かなり貴重な機会となるでしょう!
次に辰年がやってくるのは12年後ですが、サンシャイン水族館では不定期ではありますが、タツノオトシゴの仲間を展示しています。長い尻尾や、背ビレを動かしてふわふわと泳ぐ様子を見に来てくださいね。皆さんは、オスのお腹の袋を見つけられるでしょうか……!
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