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2020.09.08

モーリシャス沖大型貨物船座礁事故が地球に与える影響は? 流出した重油はどうやって除去するの?

投稿日:2020.09.08 更新日:2022.03.22

※TOPの画像はイメージです

日本のニュースを見ていると、相変わらず新型コロナウイルス感染症関連のニュースばかりという印象ですが、世界のニュースを見てみると、日本ではたった数秒、概要しか報じられない事件が、大々的に取り上げられていたりします。
そのうちの一つが、インド洋に浮かぶ島国「モーリスシャス共和国」の沿岸で発生したばら積み貨物船「WAKASHIO」の座礁事故です。
この座礁事故によって約1000トンの重油が海へ流出し、モーリシャス沿岸の生態系へ大きな影響を与えると言われているため、『いきふぉめーしょん』でも取り上げることにしました。
報道されている内容が中心にはなりますが、座礁事故の概要や重油流出による影響、重油の除去方法などについてわかりやすく解説していきます。

モーリシャス沖で起きたのはどんな事故?

座礁事故による油流出(イメージ)
座礁事故による油流出(イメージ)

まずは、今回モーリシャス沖で起こった大型貨物船座礁事故について、時系列で整理していきましょう。
事故が起こったのは、現地時間2020年7月25日。岡山の海運会社「長鋪汽船」の子会社「OKIYO MARITIME」が所有、「商船三井」がチャーターし運行するばら積み貨物船「WAKASHIO」が、「モーリシャス共和国」の沿岸で座礁しました。

その後、8月6日に、船体の亀裂から燃料の重油約1000トンが漏れ出していることが判明。翌8月7日に、モーリシャス政府が非常事態を宣言しました。

さらに、8月15日には、船体が2つに分裂。8月12日時点でタンクに残っていた燃料油は全て回収されていたため、さらなる大量流出は避けることができましたが、船倉に残っていた100トンの燃料が漏れ始めてしまったそうです。

2つに分裂した船体については、8月20日、モーリシャス政府が、一部を海底に沈める作業を始めたと発表しました。

これが、事故発生からの大まかな流れです。この間、モーリシャスの国民たちが、海岸に流れ着いた重油を手作業で除去したり、手作りのオイルフェンスで重油を吸着するといった作業を行っていたりもします。

今回の重油約1000トンの流出というのは、油流出事故としては小規模な部類に入ります。比較するものでもないと思いますが、史上最悪の原油流出事故と言われている、2010年に起きたメキシコ湾原油流出事故では、数十~数百万トンもの原油が流出していますから、それに比べれば、かなり流出量は少ないと言えます。
しかし、今回の事故は、流出量が少なくてよかったという話には決してなりません。その理由は、モーリシャス沿岸という、地球上で最も環境保全に力を入れなければならない場所の一つで起こった事故だからです。自然環境や生態系の破壊という点において、史上最悪の事故と言っても過言ではないかもしれません。

事故が起きたモーリシャスはどんなところ? 重油流出による影響は?

モーリシャスの美しい景色(イメージ)
モーリシャスの美しい景色(イメージ)

モーリシャス共和国は、「インド洋の貴婦人」とも呼ばれるインド洋に浮かぶ美しい島国です。大きさは東京都とほぼ同じ。
日本からの直行便がないため、日本人にとってはあまりメジャーな国ではないかもしれませんが、世界的に有名なビーチリゾートで、豊かな自然が残る一方、アフリカの中では、かなり経済発展の進んだ国でもあります。

ばら積み貨物船「WAKASHIO」が座礁したのは、そんなモーリシャスの沿岸の「ポワントデスニー」。ここは、「国際的に重要な湿地及びそこに生息・生育する動植物の保全を促進する」ことを目的とした、「ラムサール条約」の指定地域に含まれている湿地帯です。
また、サンゴ礁が広がり、絶滅危惧種の「アオウミガメ」が生息する「ブルーベイ海洋公園」や、希少種が生息する自然保護区の「エグレット島」からも近い場所。つまり、モーリシャスの固有種をはじめとする珍しい生き物が数多く生息していて、今なお、生物の多様性が色濃く残る貴重なスポットなのです。

このような自然環境や生態系にとって重要な場所で重油が流出するとどうなるのか。その影響は計り知れません。
まず、重油の付着によって身動きが取れなくなったり、窒息したりして、魚や甲殻類、水鳥などが死んでいきます。特に、海岸沿いに生息する生き物は、壊滅的な被害を受けてしまうでしょう。
例えば、大海原のど真ん中で船舶が氷山などにぶつかり、燃料が流出した場合、付近の生き物の一部は、重油によってダメージを受けて死んでしまいますが、回遊している生き物も多いため、汚染されたエリアから逃れて生き続けることができる生き物も多くいると考えられます。
一方、今回のように、陸地のすぐ近くでの流出事故の場合、海岸付近の浅瀬にいる生き物たちは、あまり動き回らず定住していることが多いため、押し寄せる重油から逃れることができず、飲み込まれてしまう可能性が高いのです。

また、サンゴやマングローブも油の付着などによって徐々に弱っていき、回復できなければ、やがて死に至ります。
サンゴ礁やマングローブ林は、生き物たちの重要なすみかです。そのすみかが無くなってしまえば、そこに住んでいた生き物たちは、仮に、重油による直接的なダメージを受けていなくても、今まで通りに生きていくことができなくなり、多く場合、その数を減らしていってしまうことが予想されます。

このように、流出した重油によって、モーリシャスに生息する多くの珍しい生き物たちが絶滅の危機に瀕し、最悪の場合、少なくない数の生き物が実際に絶滅してしまうことでしょう。

さらに、生き物が減り多様性が失われるということは、食糧危機をもたらします。
ある1つの種が絶滅すると、その生き物の捕食者は、食べ物が手に入りにくくなり、別の獲物を見つけられなければ、その捕食者も絶滅してしまうかもしれません。また、新たなターゲットになった生き物が狩り尽くされてしまう可能性だってあります。
この連鎖が続いていけば、いつか、私たち人間が水産資源を手に入れられなくなる日がくる可能性も。

今回の重油流出事故が、自然環境や生態系の破壊という点において、史上最悪の事故と言っても過言ではないのは、モーリシャスの生き物たちを死に追いやり、生物多様性が失われる可能性が非常に高く、さらに、やがて地球規模の問題へと繋がっていく可能性も大いにあるからなのです。

影響を受けるのは、モーリシャス沿岸に生息する生き物だけではありません。今回の重油の流出は、モーリシャス共和国の人々の生活にも直接的に大きなダメージを与えます。
以前、「サンシャイン水族館」の「サンゴプロジェクト」について紹介した記事の中でもお伝えしましたが、サンゴ礁やマングローブ林は、漁場や観光資源、天然の防波堤としての役割もあります。つまり、サンゴ礁やマングローブ林の死滅は、漁業や観光産業にダメージを与え、さらに、自然災害の発生時に、その被害を大きくしてしまう可能性もあるのです。
モーリシャス共和国は、世界的に有名なビーチリゾートですから、漁業や観光業に従事している人も多いでしょう。ただでさえ、新型コロナウイルス感染症の影響で、特に観光業は既に大打撃。そこへ、今回の事故ですから、廃業に追い込まれてしまう人も少なくないのではないでしょうか。
また、海岸に流れ着いた重油の化学成分が揮発し、海の近くに住んでいる方や、重油の除去作業を行っているボランティアの方に健康被害が出る可能性も。

こういった悪い影響を最小限に抑えるためには、早急に重油を除去する必要があります。では、海へと流れ出した重油は、どのようにして除去するのでしょうか。

重油はどうやって除去するの?

オイルフェンス(イメージ)
オイルフェンス(イメージ)

一般的に、海に油が流出した場合、まずは、油が拡散するのを防ぐため、座礁した船などの周囲をオイルフェンスで囲みます。
そして、オイルフェンスの内側にある程度油が集まったら、油回収装置を使って、海水をろ過するように油を吸い上げたり、油吸着材と呼ばれるスポンジのような資材を使って海水に浮く油を吸い取ったりします。

流出した油の除去は、このような物理的手段で回収するのがベスト。しかし、悪天候で作業がうまく進まなかったり、流出量が多すぎるといった場合には、化学的な手段で処理をする必要があります。

油処理剤の一つである油分散材には、界面活性剤が含まれていて、油の浮いた海に散布すると、油を小さな粒にして、水中に分散させていきます。仕組みとしては、家庭用の食器洗い洗剤などと同じです。
油分散材を使った処理の場合、海底に油が降り積もることも少ないため、油による被害の拡大を防止する効果は大いに期待できますが、界面活性剤や有機溶剤などが動植物にダメージを与える可能性もあるため、使用を反対する環境保護団体もあります。

では、今回のモーリシャス沖の事故では、どのように重油を処理するのでしょうか?
モーリシャスの国民が、自分の髪の毛を切ってストッキングなどに詰め、オイルフェンスを手作りしているというニュースが報じられたりもしていましたが、重油の流出後に悪天候に見舞われたこと、また、既に多くの重油が海岸に流れ着いてしまっていることもあり、オイルフェンスやその他の物理的な回収はあまり上手くいっていない印象です。
では、油分散材などの化学的な処理をするのかというと、どうやらそれもできないよう。生物多様性のある貴重なスポットのため、生態系へ大きな影響を与える可能性のある手段は取れないとのこと。
そのため、今回は、油吸着材などを使いつつ、マングローブなどに付着した重油は、手作業での除去を予定しているそうです。この方法では、重油を完全に除去するには膨大な時間がかかるため、モーリシャスの自然が元に戻るまで、30年もの時間がかかるという見方も。中には、もう二度と元には戻らないと言う専門家もいます。

日本に住む私たちにできることはある?

新型コロナウイルス感染症対策のために入国の制限をしているのは、モーリシャスも同じ。そのため、一般の方がボランティアとして現地入りし、重油の除去を手伝うというのは現実的ではありません。

では、日本に住む私たちには何ができるのでしょうか?

私たちにできること、私たちがすべきことは、関心を持って正しく知るということだと思います。
個人的に、今回のモーリシャス沖での座礁事故、重油流出について、日本の海運会社の船舶の事故であるにもかかわらず、日本での報道はとても少ないなと感じました。新型コロナウイルス感染症の影響で、なかなか現地取材ができないからということもあるとは思いますが…。
事故に関係する国、また、同じ島国の国民として、もっと関心を持って情報を集め、そして、その内容を共有したり、何かできることはないかと考える。まずは、そこからではないでしょうか。
つまり、今、この記事を読んでいるあなたは、すでに、モーリシャスの自然環境や人々のためにできることの第一段階をスタートさせることができているのです。

もし、何かもっと直接的な支援をしたいと考えているなら、募金やクラウドファンディングに参加するというのも一つの手。また、今回の流出事故の支援には直接繋がりませんが、地球環境のことを考えてよりエコな生活を心がけるということも、私たちにできることの1つではないでしょうか。

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